
僕はもともと英語が大の苦手だった。それが後押しして英語が嫌いになり、英語嫌いが後押ししてさらに苦手となり、、といった悪循環が中学1年から大学2年になるまで続いた。
そんなある時、ふと「映画を字幕なしで見たい」という夢を抱くようになった。その動機は「ただ格好いいから」という不純なもので、おそらくこの「格好いい」には「モテたい」という含みがあったことは間違いないだろう。
前述の通り英語が苦手な僕が、周りの学生よりも7年ほど遅れた学力を取り戻すためには「語学留学しかない」と確信していた。
アルバイトはしていたものの、留学に行くための資金なんて持っているはずもなく、恥ずかしながら親にお願いするしかなかった。
誰よりも勉強が嫌いで、その中でも国語に次いで2番目に苦手な教科である英語を、夏休みという貴重な時間を割いてまで勉強したいと申し出るバカ息子の見違える姿勢に感銘を受けたのか、両親は潔く留学へと行かせてくれた。
バカ息子が生まれて初めて進んで勉強をしたいと言ったことに、将来はエリートサラリーマンにでもなってくれるものだと密かに期待を寄せていたことだろう。(残念ながらこの留学を機に人生のレールから大きく外れていくことになる)
そういった経緯で、大学2年の夏休みにカナダへ出発した。これが人生初めての一人での海外となる。
バンクーバーやビクトリアといった日本人にも聞き覚えのある都市があるブリティッシュコロンビア州、その州にあるケローナという小さな街に6週間滞在することになった。
到着して数日が経った頃、ダウンタウンと呼ばれるケローナの中心地を歩いていた。
小さい街らしく大したお店なんてほとんどなかったのだが、街の一角にスターバックスがあるのを見つけた。
日本ではスタバなんてオシャレな店に入ることはほぼなかったのだが、「海外ではいい感じのカフェで本を読むことが流行っているに違いない!」という根拠なき偏見により入ってみることにした。
店に入るとすぐに、あることに気がつく。「一体何を注文すればいいだ?」
ただでさえ英語なんて話せないのに、スタバ素人だということまでバレてしまった日にはバカにされるんじゃないか。
そんな不安が頭の中をよぎる。
そこで普段あまり使うことのない脳みそをフル稼働した結果、オシャレ過ぎず、且つシンプル過ぎない絶妙な配合が取られていそうだからという理由により「バニララテ」に白羽の矢が立った。
「これならイケる!」と確信すると、まるで日本では常連だったかのように振る舞いながら「バニララテ」を注文してみた。
しかし、すぐさま店員から「Sorry?」と返される。
誰よりもハートの弱い僕は「Sorry?」の一言で心が折れかけそうになる。
なんとか持ち堪えることはできたが確実にヒビは入っていただろう。
もはや引き返せない状況なだけに、もう一度だけ小さな声で「バニララテ」と伝えてみた。
しかし店員は「なんて言ったの?」と再び心を折りにきたのだった。
もしかしたら「バニララテ」というチョイスが悪かったのではなく、発音に問題があるのではないかということに気付く。
とりあえず「バニーララテ」と少し言い方を変えて伝えてみる。
しかし、「???」という顔を続ける店員。
何度も伝えてるのに聞き取ってもらえないことに、恥ずかしさを覚えた。
なにしろ後ろには行列ができていたのだ。
僕の拙いジャパニーズイングリッシュが聞かれている。
絶対にバカにされているだろうな。
それだけじゃなく「時間がないんだから早く注文しろ」と言わんばかりの顔で、こっちを見ている気もした。
後ろの客からの圧力を感じつつ「早く聞き取ってくれ!」と一生懸命願いを込めながら、自分のできるあらゆる発音で「バニララテ」と連呼してみる。
が、全く伝わらず。
「嘘つけ!」と、心の中で突っ込みつつも、ひたすらそれっぽく発音し続けるしか僕に残された選択肢はなかった。
結局、僕の思いは届くことはなく、最終的には店員がわざわざカウンターから出てきてくれて、上に飾られたメニューに指を指す形で注文を終えた。
この時の恥ずかしさたるや。
それにしても、なぜこんなにも伝わらないものなのか。
後に知ることとなったのだが、「バニラ」のスペルは「Vanilla」なので「V」の発音、つまり「ヴァニラ」と発音しなくてはいけなかったということは理解した。
「ヴァ」の発音は日本語にないことも理解した。
だからって、「バニララテ」の部分と、自分のお店の限られた商品を照らし合わせて「ヴァニララテ」を導き出すことくらいできたのではないだろうか。
この経験は僕の英語人生において未だにトラウマとなっている。
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