
日本では年間チケットを購入するほどサッカーが大好きだったりする。
といっても、スタジアムでビールを飲むことが真の目的という噂もある。
まあ言われてみれば、酒の飲み過ぎで試合終盤の記憶がなくなることも数えきれないくらいあった…
そんな「自称サッカー通」の僕は、イタリアのミラノに日本代表の長友佑都選手が所属するインテルの試合を観に行った。
セリエAは当日でもチケットが買えるという情報を入手していた。
でも、そこは日本を代表する小心者。試合の前日にはソワソワが止まらなくなり、当日早朝にはインテルのホームスタジアムであるスタディオ・ジュゼッペ・メアッツァへと駆けつけていた。
しかし、残念ながらチケット販売は試合開始の3時間前とのことで、チケットブースにはシャッターが降りていた。
完全に無駄足を踏んでしまう。
こんなことになるくらいなら前売り券を買っておけばよかった。
イキったツケがここで回ってきたのだろう。
しょうがないのでミラノの街を観光してからまた戻って来ることにした。
キックオフの1時間前には到着できるように観光を切り上げスタジアムへと向かった。
できる大人は1時間前行動が基本であると、どこかで聞いたことがある。ついでに、できる大人は下見も欠かさないんだとか。
知らぬ間にできる大人へと成長していた自分の潜在価値に震える。
一度下見に来ていた甲斐あって、チケットブースまで迷うことなく行くことができた。
が…しかし…
・・・
あれ?聞いてないよ?
早朝に来た時は人一人としていなかったのに…
ブースの前は大勢のサポーターで賑わっていた。
手を挙げて「Why!?」ってジェスチャーしている人を見て分かるように、試合開始前から激しい戦いがすでに繰り広げられていた。
どのくらい激しいのかって?
先進国イタリア。その国にあるチケット窓口が鉄格子で覆われていることがその激しさを十分に物語っていると思う。
絶対に負けられない戦いがそこにはあった。
戦う準備なんて全くしてこなかったけど、とりあえず日本を代表して列の最後尾に並んでみることにした。
1時間経っても列の真ん中くらいまでしか進まない…
それに後ろの方にいたときはあまり感じなかったけど、真ん中に近づくにつれて徐々に激しさが増すのが分かる。
しかもそれを後押しするかのように奇しくもキックオフの笛が鳴り響いた。
イタリア人に囲まれながらも必死に足の踏み場を探す。
まるでラッシュアワーの田園都市線の車内のようだった。つまり地獄。
地獄の生活に耐えつつ、ようやく窓口が射程圏内に入ろかというときに事件は起きた。
周りのイタリア人たちが僕に向かって何かを言ってきたのだ。でも何を言っているのかはさっぱりわからない。
次第に手を使って列の外へと追い出そうとする運動が起こり始める。
これには流石に気がついたよね。馬鹿な僕でも気がついちゃったよね。
さっきまで繰り広げられていた足の踏み場の奪い合いとは明らかに別の次元の戦いが勃発していることに。
周りにいる人、全てが敵となっていた。
なんでそんなことになったのか原因はわからないが、彼ら全員で僕を列から追い出そうとしてくることだけはよく分かる。
高校・大学と田園都市線の下りでゆっくり座りながら通学していたとはいえ、こちとら満員電車に何回かは乗ったことあるんだぞ!と意気込みつつ負けじと踏ん張る。
しかし緻密なまでに連動された彼らの守備は、まさにイタリアサッカーが得意とするカテナチオ(堅守)そのものだった。
まさかサッカー以外の場所でもカテナチオを拝む日が来ようとは。
それもまさか自分がカテナチオと対峙する日が来ようとは。
カテナチオを切り崩すことのできなかった僕は、泣く泣く列の後ろへと戻るしかなかった、、、
正直、もう試合観るのやめようかと思うくらいムカついた。
僕だって1時間半以上みんなと一緒に並んでいたのに。
実家で大切に保管してあるデルピエロのユニフォームもバッジョのユニフォームもビエリのユニフォームも全部破り捨ててやろうかと思うくらいイタリアに対して嫌な気持ちになった。
列の後ろに戻るとダフ屋のおっさんが笑顔でこっちを見ている。
一連の流れを見ていたかのように笑顔で僕を待ち構えている。
あんな列にもう一度並ぶくらいならダフ屋で買ってもいいかなと思い、一応値段だけ聞いてみた。
すでに試合が始まっているというのに、なかなかの値段を吹っかけてくる強気なダフ屋のおっさん。
買おうとしていたチケットは23ユーロという最安値のものだったので、ダフ屋は諦めて再び列の後ろに並ぶ。
前半が終わろうとする頃、ようやくあの鉄格子の前にたどり着くことができた。
長かった。本当に長かった。
「一番安い席一枚」と告げると、中川家の礼二のように「パスポート」と言いながら右手を出してきた。
どうやらチケットを購入するにはパスポートが必要らしい。
日本では考えられない。
パスポートを手渡すとおばさんがパソコンでカシャカシャやりだした。
そして受け取ったチケットには自分の名前が刻まれていた。
一枚一枚名前を書かないといけないから時間がかかってたのか…
名前入りチケットを握りしめ、スタジアムへと急ぐ。
入口には厳つい風貌の警備員が待ち構えていた。
Jリーグを見に行ったことがある人ならわかると思うが、日本の場合チケットもぎる係には女性が多い。
それも明らかにアルバイトであろう華奢な女性が立っていることが多い。
でも、イタリアのもぎる係はどうみてもアルバイトの人ではなさそう。
なんなら軍隊から派遣されてきたんじゃないかっていうほどの出で立ち。
戦いを挑んだら120%負けるレベル…即死。
十八番であるペコペコ頭を下げながら、軍隊のお兄さんにチケットを手渡すとパスポートの提示を求められた。
入場するときには必ず本人確認をするようだ。
・・・
えっ?
ってことは、ダフ屋でチケット買っていたら入れなかったじゃん?
買わなくてよかった。
ダフ屋のおじさんが20ユーロとかで交渉してきていたら間違いなく買ってたよ僕。
と、最悪の事態だけは免れることができたが、心に深い傷を負うことになってしまうほど苦い思い出のサッカー観戦となった。
(しかも長友選手は出場しなかったという、とんでもないオチ付き。)
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